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一章 -再会-

​第一話「はじまり」

 男たちは、砂利を鳴らしながら歩いていた。この国はとても美しい。桜の花が常に咲き誇り、その美しさを堂々と主張している。ピンク色の花弁が舞う中、男たちはここへやって来た目的を思い返していた。

 青い髪の青年――名を青柳春仁という――は天を仰いだ。この世界には神がいる。神は四神を造り出し、それぞれに任務を与えた。青龍は東を、朱雀は南を、白虎は西を、玄武は北を、そして麒麟は中央をそれぞれ守るように――と。四神たちはその任務を守り、それぞれの方位に大陸を創り出し、国を造り、そして人間を造り彼らを見守った。この何百、何千……いや、もっと長い年月見守って来た。

 しかし、長い年月の間に神は自身の力が弱まっていくのを感じていた。四神たちも次第に力を失い、そうして中央を司る神『麒麟』が転生してしまった。他の四神たちも力を失いとうとう人間へと転生し、現在に至る。

 

 春仁は、東を司る青龍の転生後の姿であった。そうして、他の男たちもそれぞれ朱雀、白虎、玄武の転生後の姿だ。彼らには転生前の記憶があり、今は麒麟を探す旅をしていた。

 ここ『青白磁国』は、青龍が加護する国である。温暖な気候で、一年中暖かく桜が咲き誇り、穏やかな時間が流れている。国を統治する国王は、物腰が柔らかく民衆にも支持されており争い事は好まない。

 国民性なのか、穏やかな性格の者が多く、皆助け合って生活していた。村々で農作物を育て自給自足の生活を営んでいる。主食はイモ類で、それらを物々交換したりして生計を立てている者が多い。春仁は、そんなこの国が大好きだ。

しかし、ここにも麒麟の気配を感じることは出来なかった。

 

「やっぱ、気配だけで探すなんて無理なんじゃねーの?」

 

 朱色の髪の男――雀部夏南は諦めたように、そんなことを呟く。褐色の肌と目立つ八重歯は彼の活発さを引き立てている。朱雀――南を守る神の転生した姿がそれだ。動きやすそうな服はこの国では少し肌寒いだろう。しかし、夏南はそんなこと微塵も感じさせないように頭の後ろで腕を組み、麒麟の気配が感じられないことを嘆いている。

春仁はそんな夏南を宥めつつ、他の二人に目を向けた。

白髪の長髪を悠雅になびかせながら、桜を見つめているその薄化粧の横顔はまさに女性そのものだが、彼はれっきとした男である。神によって三番目に造られた西の方角を守る神――白虎の白木院秋は、我関せずと言わんばかりに周りの景色に気を取られてフラフラと歩き回っている。いつものことなので、春仁はそれを見つめるだけで特に注意することはしない。彼は常に自由を欲しているのだ。それを春仁はわかっていた。

 

「あたし、桜って初めて見るのよね、すごく綺麗じゃない、青龍……じゃない、春仁?」

「そうだね、僕も桜は大好きだよ秋」

 

 郷に入っては郷に従え。人間界に転生された彼らには、新たな名前が与えられた。慣れるまでは苦労するだろうが、それでも彼らはお互いを新たな名で呼ぶよう心掛けている。

 

「ねぇ、春仁この国には苺はないの?」

 

 そう呟くのは、玄澤冬華――北の方角を守る神・玄武である。深い漆黒の髪に、金の瞳を持ち、肌は透けるように白い。その儚さは、風が吹いただけでも倒れてしまいそうなほどだ。

 冬華は偏食が激しく、苺しか食べない。春仁はこの国に苺があるのか心配になったが、自身がまだ神界に居た頃に人間が作っているのを見たことがあるのでもう少し涼しい地域に行けばあるだろうと冬華に教えてあげた。

この個性豊かな面々を纏めるには一苦労だが、春仁は年長者として自分がきちんとしなくてはという思いを強めた。実は、春仁が転生してすぐはこの国には彼一人しかいなかったのだ。色々な国を転々とし、仲間を見つけ出し、やっとの思いで全員が揃ったばかりだった。その道中には、沢山の苦労があり辛い思いも沢山した。春仁は、目前の桜の大木を見つめながら、これまでの旅を思い返していた。

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