• 浅黄なつき

【短編小説】「黎明アルトリア」より「出会い」

出会い


 その国は、大きな問題を抱えていた。それは、いつしか世界を巻き込み収束していく。

そう、この物語は終わりへ向かう“セカイ”の物語なのだ――……。

 彼女は今日もまた、この広大な鳥籠の中にいる。それは、彼女の意思なのかそれとも、他の誰かのものなのか、長いことこの籠の中にいる彼女にはわからなくなっていた。

 ただ、「外のセカイは恐ろしい」……。それだけが彼女が有している"外のセカイ"の知識だった。キングサイズのベッドに足を投げ出し、いつも読んでいる分厚い書物を枕の下から取り出した。彼女の小さく長い、すらっとした指がその書物のページをめくる。そこに描かれたおとぎ話の数々に、彼女は瞳を輝かせた。

 彼女の知識は、時々部屋を現れるメイドたちから与えられる書物によって構築されている。今日の話は、塔に捕らわれたお姫様と、そのお姫様を助けに来る王子様のお話だった。彼女はその話を虚ろな表情で読み進める。先程までのワクワクした気持ちは、もうそこにはなかった。

「塔から出られないお姫様かぁ……」

 まさしく自分のことではないか、と少女は自虐的に笑んだ。何度も外に出たいと訴えかけたが、その度に彼女の両親はそれを拒むのだった。理由なんて彼女にわかるはずもない。彼女の"セカイ"はここだけなのだから。


 ある日、部屋の外でなにやら騒がしく、メイドたちが動いている音が聞こえた。彼女はドアに耳を当てて何事か窺う。話し声は聞こえるが、それは鮮明ではなく、何を話しているカマでは聞き取れない。部屋から出ようか迷っていると、突然、ノックの音が彼女の耳に届いた。

「だ、誰?」

 少し動揺して、声が上ずってしまった。しかし、ノックをした主はそんなことを気にする様子もなく淡々とした口調で話しかけてきた。

「フィーア様、少々お時間宜しいでしょうか?」

「なんだ、バドだったのね。どうしたの?」

 彼女――フィーアは、ドアノブを回し、声の主の姿を確認した。初老の執事は、恭しく一礼し、口を開く。

「今朝方、邸の前で倒れている少年を発見いたしまして、身寄りもないとのことで、この邸で小間使いとして住まわせることとなりました」

「そう……」

 フィーアは、邸のことについては執事である彼――バドに一任していた。なので、フィーアが口を挟むことは無い。バドの横には、薄汚れた格好の少年が一人、こちらを睨み付ける様にして立っている。自分より幼いのだろうか、そんなことを考えた。この時、フィーアは初めて自分より幼い人間を目の当たりにする。不思議な感覚だった。

「……あんたがお嬢様か」

 少年はフィーアを睨みつけながら呟いた。フィーアはどうすればいいか解らず、その言葉を受け流す。バドが少年に対して眉を潜めたが、それ以上少年が喋ることは無かったので、いつもの柔らかい表情へと戻った。

「彼はスヴェン。これから私がビシビシ鍛えますのでもうこのような失礼な口を聞くことは御座いません」

「……えぇ、解っているわ。バド」

 スヴェンとどう接すれば良いのかわからないフィーアは、素っ気なくバドにそう伝える。いつもは、大人がフィーアのことを気にかけてくれていた。だから、自分が気を使うにはどうすれば良いのか、フィーアは皆目見当がつかなかった。

「それでは、私たちはこれにて……」

「私……――」

  フィーアは真っ直ぐにスヴェンを見据えた。訝しそうにスヴェンもフィーアを見つめる。

「私、お嬢様じゃないわ。フィーアよ!」

 そう言ったフィーアの瞳は楽し気に輝いている。そのまま振り返ることなく、フィーアは部屋のドアを閉めた。


 何かが動き出しそうな、そんな気がした――……。


#一次創作 #黎明アルトリア #短編小説

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もう一人の存在 幼い頃の記憶なんて早く忘れてしまえればいいのに。幾度そう願っただろうか。けれど、その記憶は決して消し去ることなどできない。こんな酷い体験をしたのは俺くらいなんじゃないかとさえ思える。 青々と晴れやかな空を眺めていたら、そんな体験もなかったのではないかと思えてくるが、体がそれを覚えている。沁み付いたそれは、きっと一生消えることは無いだろう。乾いた笑いが込み上げてくる。それが今はどうだ